こんにちは!フリーランス薬剤師のはいたっちです!!
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膨らみ続ける医療費を抑制するための“ある方法”が提案されています。
それが…
医療用医薬品(処方薬)の一部を保険対象外にすること
湿布薬やビタミン剤、花粉症治療薬など、OTCでも代替可能な薬の自己負担額が変更されるというものです。
これにより2,126億円の医療費が削減できると試算されています。
この動きによって業界にはどのような変化があるのでしょうか?
患者へのメリットは?デメリットは?
今回はこのNEWSを考察していきます。
Contents
花粉症・湿布薬などの処方薬を市販薬で代替する
厚生労働省は、医師が処方する軽症向けの市販類似薬について患者負担の引き上げを検討する。
一部の湿布や漢方薬を念頭に、定率の1~3割負担に一定額を上乗せする案が浮上している。
日本経済新聞
医療費の増加はとどまるところをしらず、3000万円を超える薬価の薬(キムリア)まで登場しています。
膨れ上がる医療を抑制すべく厚労省が提示した次の一手が、『一部処方薬を市販薬で代替する』というもの。
一部処方薬とは、具体的に、湿布薬・皮膚保湿剤・ビタミン剤・風邪薬・うがい薬・漢方薬などです。
今回の提案は、これらの医薬品を、保険負担ではなく全額患者負担にするというものであり、これによって削減可能な医療費は2126億円にもなるとのことです。
【自己負担増!?】患者へのメリットとデメリット
この案が現実になった際の患者サイドへの影響として、まずは単純に自己負担が増加します。
いままでは3割の負担金(患者によっては1割)で手に入った医薬品が、全額負担もしくは薬局(ドラッグストア)で購入することになります。
湿布薬やビタミン剤を大量に処方されている患者にとっては、かなりの負担増が予想されます。
患者へのメリットもある
もちろん患者へのメリットもあります。
それは『本当に必要な医療用医薬品が保険適応で受けられる』というものです。
当たり前すぎて忘れてしまっていますが、抗がん剤や希少疾病用の医薬品などは、サラリーマンの給料ではとうてい支払えません。
それを可能にしているのが保険制度です。
ですが、この保険制度が維持できないとなると、いずれは『薬価のカベ』によって諦める命が出てくることになります。
今回の提示案は、そんな未来を作らないための方法ですので、将来的に患者へのメリットが予想されます。
最大のメリット!?ポリファーマシーの改善
ポリファーマシーという言葉をご存知でしょうか?
ポリファーマシーとは、多種類の薬を処方されている状態のことで、多くの高齢者がポリファーマシーの状態に陥っています。
若い世代には考えられない事かもしれませんが、体のちいさなおばあさんが毎食後10錠以上の薬を飲んでいるなんてことは“普通”にあります。
イメージして下さい…
腰の曲がった自分の身長よりも高く積み上がりそうなほど大量の湿布薬を、手押し車にのせて大事そうに持ってかえるおばあさん。
家には1年以上前に処方された湿布薬がまだ残っているというのに、“お偉い先生”には口が裂けても『いらない』とは言えません。
患者がいらないと言わないので、医師としても『あんていしているな…このままの処方で継続しよう』と思います。
加えて、年齢と共に『めまい・不眠・便秘・節々の痛み・頭のモヤモヤ』などの新たな症状が出現します。
各種検査を行ってもその症状の具体的な原因は特定できず…
困った医師はひとまず『可もなく不可もない薬』を処方します。
タダでさえ大量の薬が処方されているおばあさんに、さらにもう1剤薬が追加になりました。
これでポリファーマシーの出来上がりです。
ポリファーマシーの是正で数億円が削減可能
在宅医療の分野で薬剤師が患者宅を訪問すると、大量の薬が保管されているというのは“薬剤師あるある”です。
調剤薬局が始められるのでは?と思うほど、大量の医薬品を持っている高齢者もいます。
これらは処分するしかない医薬品です。
保管状況も劣悪で状態もわからないので、使用を勧めることはできません。
このような医薬品をなくすことができれば、数億円単位で医療費を削減できることが試算されています。
ポリファーマシーの是正で健康被害も改善
医薬品には副作用が存在します。
薬は飲めばいいというものではありません。
ポリファーマシーによって『なにがなんだか』わからない状態になっている患者は、原疾患(病気)によって不調なのか、薬の副作用によって不調なのか見分けがつきません。
体調不良で病院に行くと…また薬が追加されます。
眠れない、体が痛い、だるい、ドキドキする、めまいがする…これらは薬の副作用なのかもしれませんが、ポリファーマシーになってしまった今では、もうわかりません。
ポリファーマシーになっている患者の『不要』な抗不安薬や向精神薬、睡眠薬などを取り除くと、QOLが向上するという報告もあります。
当たり前のことです。そもそも不要なのですから。
しかし、このように口で言うのは簡単ですが、『必要なの薬と不要な薬』の見極めが非常に難しく、専門医でもポリファーマシーを改善するのは難しいというのが現状です。
他診療科の処方には関わりたくないという医師の本音
医師にはそれぞれの専門があります。
血液内科と整形外科では、全くといっていいほど仕事内容が違います。
血液内科から処方されている薬を、かかりつけの整形外科医が“再編する”というのはかなり難しいのです。
専門知識の有無というカベもありますが、それだけではなく“社会的な障壁”が大きく立ちはだかります。
一般企業においても、Aというセクションがやっている仕事に、Bというセクションが口を出せば、それはケンカの火種となりますよね。
AとBが“畑違い”のセクションであればなおのこと…
『なんでおたくがうちの仕事にケチをつけるんだ?おたくになにが分かるんだ?』となるはずです。
医師も同じです。
『この薬はいらないのでは?』と心で思ったとしても、サラリーマンであれば黙っているのが懸命です。
もちろん、すべての医師がそうではありませんが、医師も人間でありサラリーマンです。
こうなることは自然だと思います。
初めから保険対象外になれば不要な薬は減る!
今回の厚労省案のように、はじめから保険対象外であれば『微妙な薬』は間違いなく減ります。
正直なところ効いているのか効いていないのか分からない…
でも患者は『安定している』と言っている…
万が一この薬を減らして体調が悪くなられても困る…
このままにしておこう…
ビタミン剤や湿布薬などの多くの薬は、こういう思考回路で継続処方されています。
病気になった直後や痛みが出現した当時は、湿布やビタミンが大活躍して、その患者のQOLを上げたことは間違いありません。
しかし、1年、2年、5年が経過してもなお、その湿布は本当に必要なのでしょうか?
もちろん、必要な人には必要です。
しかし、ぶっちゃけ必要のない人がいることも事実です。
個人的には今回の厚労省案には賛成です。
ただし、もう少し薬剤の精査をしてほしいと思います。
そして、今回の案や医療費削減、ポリファーマシーの是正に、薬剤師が貢献できることを心から願っています。
Sincerely,
Hitouch