車椅子は、自力では移動できない利用者さんにとって欠かせない移動手段です。
移乗の失敗は骨折などの大ケガにつながるため、正しい移乗方法を身につけなければなりません。
そこで本記事では、利用者さんをベッドから車椅子に移乗させる正しい方法について解説していきます。
車椅子の点検方法、注意点についても紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
移乗を行う前に念入りな車椅子の点検を
移乗介助とそのあと車椅子移動が安全に行われるためには、車椅子の点検が欠かせません。
点検方法のポイントは、大きく分けて4つあります。
- ブレーキの効きをチェック
- タイヤの空気圧・消耗具合をチェック
- 座席の座り心地をチェック
- まっすぐ進むかチェック
一つずつ確認していき、しっかりと実践できるよう備えましょう。
ブレーキの効きをチェック
ブレーキがきちんと効くかチェックしましょう。
ブレーキの効きが悪く停車時に動き出すような状態だと、思わぬ事故に繋がる恐れがあります。
ブレーキの効きは、以下の5つをチェックします。
- ワイヤーが伸びていないか
- ワイヤーカバーが折れ曲がっていないか
- タイヤの溝がしっかりとあるか
- ブレーキの取り付けネジが緩んでいないか
- タイヤの空気圧は十分か
どれか一つでも該当すると危険ですので、直ちに修理を依頼し使用を避けてください。
タイヤの空気圧・消耗具合をチェック
タイヤの空気圧は、ブレーキの効きや利用者さんへの衝撃吸収に関わるため、しっかりとチェックしておきましょう。
タイヤの空気は徐々に減っていくため、1ヶ月に1回は最低でもチェックする必要があります。
適正空気圧はタイヤの側面に記載されていますので、記載されている数字を目安に空気を入れてください。
また、タイヤの溝の深さや傷・ひび割れの有無をチェックし、消耗具合をチェックすることも忘れてはいけません。
タイヤが消耗しツルツルの状態になるとブレーキの効きが悪くなり、タイヤに傷があるとバーストを起こして転倒する恐れがあります。
座席の座り心地をチェック
座席の座り心地は、腰痛や床ずれにも影響を及ぼすため、チェックしておきましょう。
一般的な車椅子の背もたれやシートには硬めの布が使用されており、長時間使用すると腰痛や床ずれを起こしてしまう可能性があります。
特に、新しいものは布がしっかりしていますので、クッションを入れたりシートの上に低反発のクッションやマットを乗せたりして、負担を軽減できるよう工夫しましょう。
まっすぐ進むかチェック
進行方向がまっすぐかどうか、必ずチェックしましょう。
まっすぐ進まず曲がってしまうと、ぶつけてしまうなどしてケガに繋がる恐れがあります。
チェックする際は、無人状態の車椅子を平地で押して進み、進行方向を確認します。
もし、左右均等に力を入れていても自然に曲がってしまう場合は、どこかに歪みが起きている可能性が高いです。
ベッドから車椅子への移乗方法
ベッドから車椅子への移乗方法は、以下の手順で行っていきます。
- 車椅子をベッドに近づける
- 利用者さんの体をコンパクトに丸める
- ベッドの端まで水平移動させる
- 体の向きを変える
- てこの原理で上体を起き上がらせる
- ベッドの高さを調節する
- 車椅子の角度を調節する
- 利用者さんの足の角度を調整する
- 移乗することを声かけしてから移乗させる
- お尻の位置を調整する
車椅子とベッドに近づける
まずは車椅子を用意しベッドに近づけます。
車いすはベッド横に設置し、移乗しやすいようフットサポートやアームサポート、サイドガードは上げておきます。
利用者さんの体をコンパクトに丸める
移乗介助時の介護士の負担を軽減するため、利用者さんの体をコンパクトに丸めるところからはじめます。
まず、利用者さんを仰向けの体制にし、胸のあたりで腕を組ませ膝を立たせてください。
面積を小さくして力の分散を防ぐことにより、移乗させやすくします。
ベッドの端まで水平移動させる
ベッドの端までの移動は、水平移動させることを心がけてください。
無理に持ち上げて移動させようとすると、介護士の腰に負担がかかってしまうので、水平移動させることが推奨されています。
また、より体の負担を軽減するために、自身の体になるべく利用者さんを近づけてください。
距離が近いことを気にする方もいらっしゃいますが、距離が遠いと腰に負担をかけます。
体の向きを変える
仰向け状態になっている体制から、上半身のみを介護士の方に向けさせます。
上半身を横向きにすることにより、上半身を起こしやすくします。
てこの原理で上体を起き上がらせる
利用者さんの膝と肘を支点にし、遠心力を使って体を起き上がらせ、ベッドに座ってもらいます。
てこの原理を利用すれば、自分よりも体が大きく重たい方でもラクに起こせます。
ベッドの高さを調節する
高さを調節できるベッドを使用している場合は、ベッドの高さを調節することをおすすめします。
ベッドが低いと移乗する際に持ち上げる高さが高くなり、利用者さんも介護士も負担がかかるため、車椅子よりも高い位置にしましょう。
車椅子の角度を調節する
車椅子の角度をベッドに対して45度に設置しておくと、移乗がラクになります。
車椅子は、必ずブレーキがかかっていること、フットレストを上げていることを確認してから介助に入ってください。
利用者さんの足の角度を調整する
移乗介助を行う前に、利用者さんの足を少し斜めにしておきます。
足を斜めにすることで、座るときに足がまっすぐになり座りやすくなります。
移乗することを声かけしてから移乗する
いきなり動かすと利用者さんが驚き不安になるため、車椅子に移動することを先に伝えます。
動くことを伝える際は「1、2、3で動きますね」など、動くタイミングもあわせて伝えておくと、介助がスムーズにいきます。
利用者さんを持ち上げる際は、支持基底面を大きく取って膝を曲げて腰を落とし、重心を下げましょう。
そして、利用者さんに近づいて重心を近づけ、介護士の肩に手を回すよう伝えます。
介護士に体重を乗せながら前かがみの体勢になってもらい、掛け声をかけながら介護士は腰を落としながら車椅子に乗せます。
お尻の位置を調整する
車椅子に乗せられたら、利用者さんのお尻の位置をシートに合うよう調整して、移乗介助は完了です。
注意すべきこと
これから紹介する注意点は、利用者さんや介護士のケガにも繋がることなので、必ず守って安全に車椅子移乗ができるように努めましょう。
- ベッドと車椅子の位置に気をつける
- ハンドブレーキをしっかり固定させる
- フットレストを必ず上げておく
- 腕の力だけで移乗介助を行わない
- 腰や関節への負担に気をつける
- 速いスピードで介助を行わない
- ズボンを掴まない
特に気をつけていただきたいのが、車椅子の扱いと介助スピードです。
「車椅子とベッドが遠い」「ハンドブレーキが固定されていない」「フットレストが下がったまま」「介助スピードが速い」といったことが起きると、利用者さんと介護士が転倒して大ケガを負ってしまう恐れがあります。
お互いが安心かつ安全でいられるためにも、しっかりと意識して確認を怠らないようにしましょう。
コツを掴んでラクかつ安全に車椅子移乗を行おう
今回は、ベッドから車椅子への移乗方法と注意点、車椅子の点検方法について紹介しました。
移乗介助を行う前は、必ず車椅子を点検しなければなりません。
ブレーキが効かないなどがあれば、事故に直結するためです。
また、体の使い方や車椅子の扱い方、介助スピードなどに気をつけ、安全に行われるよう心がけましょう。
ベッドから車椅子への移乗方法を、以下にまとめます。
【移乗方法】
- 車椅子をベッドに近づける
- 利用者さんの体をコンパクトに丸める
- ベッドの端まで水平移動させる
- 体の向きを変える
- てこの原理で上体を起き上がらせる
- ベッドの高さを調節する
- 車椅子の角度を調節する
- 利用者さんの足の角度を調整する
- 移乗することを声かけしてから車椅子へ移乗させる
- お尻の位置を調整する
慣れるまでは大変かもしれません。
しかし、ちょっとしたコツや安心安全にできる方法があります。
毎回実践していくことで次第にスキルが身につきますので、今回お伝えしたことを参考に頑張ってみてください。