エンハーツ(一般名トラスツズマブデルクステカン)は、抗Her2抗体であるトラスツズマブに、トポイソメラーゼⅠ阻害剤であるデルクステカンが結合した構造を持つ薬剤です。
このようなタイプの薬剤は抗体薬物複合体 (Antibody-drug conjugate:ADC)とも呼ばれ、腫瘍細胞のみをピンポイントで攻撃する作用を持つ抗がん剤です。
そんなエンハーツが『がん化学療法後に増悪したHER2陽性の治癒切除不能な進行・再発の胃癌』に対する適応を取得しました。
そこで本記事では、エンハーツの胃がんに対する効果やエビデンス、使用上の注意をまとめていきます。
参考≫エンハーツ適正使用ガイド
エンハーツの基本
抗体薬物複合体であるエンハーツは、HER2を発現する腫瘍細胞に特異的に結合して細胞内に取り込まれた後、デルクステカンが遊離し、トポイソメラーゼⅠ阻害作用により抗腫瘍効果を発揮します。そのため、HER2陽性の腫瘍細胞のみに有効性を示す薬剤です。
エンハーツの効能・効果
化学療法歴のあるHER2陽性の手術不能又は再発乳癌(標準的な治療が困難な場合に限る)
がん化学療法後に増悪したHER2陽性の治癒切除不能な進行・再発の胃癌
2021年1月現在、エンハーツはHER2陽性乳癌とHER2陽性胃がんに対する適応症を取得しており、3次治療以降のエビデンスを持っています。
HER2陽性乳がん
HER2陽性乳癌の場合、ハーセプチン+パージェタ+タキサンのトリプレット治療が第一選択となり、2次治療としてトラスツズマブエムタンシンが使用されます。
エンハーツが有効性を示しているのは3次治療以降であることに注意が必要です。
胃がん
HER2陽性胃がんの場合も同様に、XP-ハーセプチン、PTX+RAMなどの化学療法を行ったあとにエンハーツ導入を検討します。
胃がんの3次治療としてはニボルマブ(オプジーボ)も検討可能であるため、どちらを優先させるかは微妙なところですが、先行してオプジーボを使用した場合であっても、4次治療としてエンハーツを導入することができます。
エンハーツ使用上の注意点
- 間質性肺炎
- 左室駆出率(LVEF)の低下
エンハーツ使用時には、間質性肺炎に対する十分な注意を必要とします。
添付文書上にも『本剤の投与により間質性肺疾患があらわれ、死亡に至った症例が報告されているので、呼吸器疾患に精通した医師と連携して使用すること。』と警告されているように、定期的に胸部CTや胸部レントゲンの撮影をしたり、KL6などの血清マーカーを測定する必要があります。(臨床試験では6週ごとに胸部CT撮影が行われています)
間質性肺炎発現時の対応も適正使用ガイドに準じて行いましょう。
エンハーツ調製時の注意事項
日本薬局方注射用水5mLを抜き取り、20mg/mLの濃度とした後、必要量を注射筒で抜き取り、直ちに日本薬局方5%ブドウ糖注射液100mLに希釈すること。
注射用水で希釈して、5%ブドウ糖液100mlに希釈します。
- 点滴バッグを遮光
- 0.2μmのインラインフィルター
- 室温での調製及び投与は合わせて4時間以内に行う
その他上記のような注意事項があります。
エンハーツの副作用
- 間質性肺炎
- LVEF低下
- うっ血性心不全
- QT延長
- Infusion reaction
- 骨髄抑制
- などなど
胃がんにおけるエンハーツのエビデンス
第II相臨床試験(DESTINY-Gastric01)
対象
フッ化ピリミジン、白金製剤、Trastuzumabを含む2レジメン以上の化学療法歴を有するECOG PS 0または1のHER2陽性(中央判定)進行胃癌・食道胃接合部癌
有効性
主要評価項目である奏効率は、エンハーツ群で51.3[41.9~60.5]%、医師選択治療群で14.3[6.4~26.2]%であった(P<0.0001、Cochran-Mantel-Haenszel検定)。
副次評価項目の一つである全生存期間の中間解析でも、本剤は治験担当医師が選択した治療に対し、統計学的に有意な延長を示した(中央値:エンハーツ群12.5ヵ月、医師選択治療群8.4ヵ月、層別ログランク検定:P=0.0097)。
エンハーツの使い方は?
- XP or SP + ハーセプチン
- PTX+RAM
- エンハーツ or ニボルマブ
- エンハーツ or ニボルマブ(使っていない方)
HER2陽性胃がんの治療ラインのイメージです。