介護士の業務のひとつに食事介助がありますが「片麻痺の方の食事介助はどうすればよい?」と疑問に思うことがあるのではないでしょうか。
また、やり方によって利用者さんに危険が及ばないか、不安になりますよね。
片麻痺の方の食事介助がわかれば、安全な介助ができ介護士も安心できます。
そこで今回は、片麻痺がある方の食事介助をセッティングから介助のやり方、注意点も併せて紹介します。
まずは片麻痺の状態を知る
まずは利用者さんの片麻痺の状態を知ることが大切です。
片麻痺の程度は人によってさまざまであり、動かしづらさが少しある人もいれば、ほとんど力が入らない人もいます。
そして、飲み込む機能や口を動かす機能が影響を受けていることが多いため注意が必要です。
どのくらいの機能が保たれているのかによって、介助のやり方が変わります。
また、利用者さんによっては、病院で飲み込みの検査しているのでサマリーを確認しましょう。食事をとるときの注意点が記載されています。
片麻痺がある方の食事介助のセッティング
片麻痺がある方のセッティングを紹介します。
座れるか座れないか、飲み込みができる・できないによって食べる姿勢が異なります。
- 座れて飲み込みができる方:背もたれのある椅子や車いす
- 座れず飲み込みができる方:角度が60°以上のベッド
- 飲み込みがしづらい方:ベッドの角度が45~60°のリクライニング
背もたれのある椅子は、麻痺が強くない利用者さんに使います。
座れるけど背もたれのある椅子だと不安定な利用者さんには、車いすを使いましょう。
それぞれの食べる姿勢を詳しく紹介します。
背もたれのある椅子で食べる姿勢
- 背中にクッションを入れる
- 顎は上を向かず引いた状態にする
- 麻痺側の腕(肘から手)はテーブルの上にのせる
- 足の裏は床につける
※つかない場合は床に小さな台を置く
テーブルの上に腕をのせるときは、肘の角度は90°が望ましいです。
車いすで食べる姿勢
- 深く腰かける
- 体と車いすにすき間ができる場合はタオルやクッションを挟む
- 麻痺側の腕(肘から手)はテーブルの上にのせる
- 足をフットレストからおろし裏は床につける
※つかない場合は床に小さな台を置く
テーブルの上に腕をのせるときは、肘の角度は90°が望ましいです。
ベッドで食べる姿勢(飲み込みができる方)
- ベッドの角度は60度以上
- 膝の角度も少しつける
- 姿勢がくずれないようにクッション・枕を挟む
背もたれのある椅子や車いすで座ることができない方は、ベッドで食事をとります。
体が下にずり落ちないよう、膝に少し角度をつけます。
膝の角度はベッドのギャッジアップか、クッションをひざ下に入れます。
姿勢が左右にくずれないよう、体の右側と左側にもクッションを入れましょう。
クッションで姿勢を整えたら、背中の後ろと膝下の圧を抜きます。
背中の圧を抜くには、利用者さんを少し前かがみにし、服の上から背中を上から下へさすります。
膝下の圧は片足ずつ上に持ち上げて、膝下を太ももからふくらはぎにかけてさすりましょう。
圧があると衣類と皮膚がつっぱり、利用者さんが不快に感じたり、皮膚トラブルになったりします。
麻痺が強く飲み込みがしづらい方は、ベッドのリクライニングで食事をとります。
ベッドのリクライニングで食べる姿勢(飲み込みがしづらい方)
- 健側を下にして側臥位にする
- 膝の角度を少しつける
- 姿勢がくずれないようにクッション・枕を挟む
健側(障害のない側)を下にすることで、食事が重力で健側をとおり食べやすくなります。
体が下にずり落ちないよう、膝に少し角度をつけます。
膝の角度はベッドのギャッジアップか、クッションをひざ下に挟み角度をつけましょう。
クッションの位置は頭の後ろ、ベッドと顔の間、背中、膝とベッドの間、膝と膝の間など、姿勢がくずれないように挟みます。
ベッドで食べる姿勢のポイントで紹介した、圧抜きもしながら姿勢を整えます。
片麻痺の方の食事介助は健側(麻痺のないほう)に座る
食事介助は介護士が座って介助できるように環境を整えましょう。
座らずに立ったままだと、利用者さんの顔の上側から食事が届くことになるので食べづらいです。
また、飲み込みづらく誤嚥のリスクにもなります。
誤嚥とは、食べ物が本来通るはずの食道をとおらず、気管に入ってしまうことです。
誤嚥は窒息や肺炎の要因になるため注意が必要です。
介護士が健側に座ることで、利用者さんが介護士の顔や食事が運ばれる様子など見えるため、安心して食事をとれます。
また、利用者さんが食事に意識を向けられるので、食べる準備ができるのもメリットです。
ベッドでするときは、利用者さんの向いている側に座ります。
片麻痺がある方への食事介助のポイント
利用者さんの姿勢と介護士の準備ができたら食事介助をします。
食事介助のポイントを3つ紹介します。
- 食事介助は小さめのスプーンにひとくちの量
- 最初のひとくちは水分から
- 食べ物を口元に運ぶときはスプーンを真ん中かやや健側に
それぞれ詳しく紹介します。
1.食事介助は小さめのスプーンにひとくちの量
食事介助はスプーンで行いますが、大きくない小さめの浅いスプーンを選びましょう。
カレーに使うような大きなスプーンは誤嚥のリスクが高くなるため、向いていません。
また、深いスプーンは食べ物を口の中に運びづらいです。
スプーンにはひとくちの量をのせます。
2.最初のひとくちは水分から
最初のひとくちは、水分から介助し口の中を潤します。
口の中が渇いていると、食事を噛んだり飲み込んだりしづらいです。
水分の飲み込みを確認し食事を運びます。
また、固形の食事ばかりを口に運ぶのではなく、間に水分やスープを挟みましょう。
水分やスープを間に取り入れることで、利用者さんが食べやすくなります。
3.食べ物を口元に運ぶときはスプーンを真ん中かやや健側に
食事介助はスプーンと舌が平行になるように口に運びます。
片麻痺がある方に食事を運ぶときは、口の麻痺が強くない場合は真ん中に運びます。
口の麻痺が強い場合は健側に運び、誤嚥のリスクを予防しましょう。
利用者さんが口を開かない場合、下唇にやさしくスプーンを当てると自然と口が開きます。
口に運んだら、利用者さんが食べ物を口の中に入れたことを確認し、スプーンを上側の唇にそわせて引き抜きます。
利用者さんが食べ物を口の中に入れられない場合は、舌の上にのせましょう。
片麻痺がある方の食事介助で注意したいこと
食事介助で注意したいことを紹介します。
- 飲み込みを確認後に次の食事を運ぶ
- むせたら一旦ストップ
- 食事に集中できなくなったら休憩する
それぞれ順に紹介します。
飲み込みを確認後に次の食べ物を運ぶ
利用者さんが飲み込んだか確認をしてから次の食べ物を運びます。
飲み込みはのどの動きを見ると確認できます。
しかし、飲み込む動作をしていても、食べ物が口にたまっていることがあるので注意が必要です。
食事を運ぶときに口の中を確認したり、見えない場合は利用者さんに口を開けていただくと確認できます。
むせたら一旦ストップ
利用者さんがむせたら、一旦介助を止めます。
背中を下から上へさすり、咳をするよう声をかけます。
むせが止まらない場合は、背中を軽く叩きましょう。
むせが落ち着いたら一度大きく深呼吸し、食事を再開します。
食事に集中できなくなったら休憩する
利用者さんが食事に集中できなくなったら、無理して介助を続けないようにしましょう。
利用者さんは他のことに気を取られて食事を食べなくなることがあります。
無理に続けると、利用者さんは「食事どころじゃないのになぜ食事を優先するんだ」と怒ることや「意見が尊重されなかった」と悲しむこともあります。
そして、無理に口に運ぶと誤嚥のリスクも高まるため、一旦休憩をはさむことが必要です。
安全なやり方で片麻痺がある方の食事介助を
今回は、片麻痺がある方への食事介助を紹介しました。
片麻痺がある方への食事介助は不安がありますが、安全なやり方がわかっていれば自信を持って介助ができます。
ぜひこの記事で紹介したやり方を参考に、現場で活用してくださいね。