介護の仕事には欠かせない移乗介助ですが「どうすれば安全で楽に移乗できる?」と疑問を抱くことはないでしょうか。
安全かつ楽なやり方で移乗介助ができれば、利用者さんの苦痛が少なく、職員の負担も軽減できます。
そこで今回は、安全かつ楽にベッドから車椅子への移乗のやり方と注意点を紹介します。
加えて、トランスファーボードの使用方法も紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
ベッドから車椅子の移乗のやり方
ベッドから車椅子の移乗のやり方を紹介します。
車椅子の移乗のやり方は以下の通りです。
- 環境を整える
- 移乗前の体勢準備
- 車椅子へ移乗
- 利用者さんの体勢を確認
- 車椅子を整える
それぞれのやり方を詳しく説明します。
1.環境を整える
ベッド周囲の環境を整えます。移乗の妨げになるものは事故に繋がるため、全て取り除きましょう。
そして、車椅子の準備、セッティングをします。
車椅子はフットレストを上げ、レッグサポートを取り外しておきましょう。
アームレストも取り外し可能であれば外します。
アームレストは、車椅子を設置したときのベッド側のアームレストを取り外します。
車椅子は利用者さんの軸になる足側に車椅子の足側がくるよう設置し、ベッドと車椅子の角度は30度程です。
軸になる足は利用者さんの力が入りやすいほうの足です。
片麻痺がある場合は健側が軸になります。
車椅子を平行に置くと、車椅子が移乗の妨げになるため角度をつけて置きます。
そして、ブレーキを忘れずかけておきましょう。
2.移乗前の体勢準備
車椅子に移乗しやすいよう、利用者さんの体勢を整えます。
移乗しやすい体勢とは、以下の3つのポイントをおさえた体勢です。
- 浅く座っているか
※浅く座るとは大腿の真ん中あたりがベッドの端にあることを指す - 膝よりも臀部の高さが上か
- 足の裏がついているか
それぞれの体勢に整えるやり方を紹介します。
1.浅座りに整える
利用者さんが深く座った場合、浅座りに整えましょう。
ベッドに浅く座ることで、立ち上がりからの移乗がスムーズにできます。
深座りから浅座りに変更するやり方は以下の通りです。
- 利用者さんの体を支えながら、ベッドの高さを利用者さんの足先が着く高さに調整する。
- 靴を履いていただく。
- 職員は利用者さんの正面から抱きかかえるような形で一方の手は肩甲骨、もう一方の手は反対側の臀部を支える。
- 支えている肩甲骨側に利用者さんの重心を移動し、反対側の臀部を浮かせ前に出す。
2.膝よりも臀部の高さを上にする
膝よりも臀部の高さが上になるよう、ベットの高さを調節しましょう。
臀部が上にあると、利用者さんが立ち上がりやすいです。
3.足の裏を床につける
利用者さんの足の裏を床につけることで、利用者さん自身が足に力を入れやすいです。
そして、移乗時の職員の負担も少なくなります。
3.車椅子へ移乗
車椅子へ移乗するやり方は以下の通りです。
- 車椅子側の手を利用者さんの肩甲骨に、反対側の手で臀部を支え、抱きかかえるようにする。
- 利用者さんに合わせて体の重心を低くする。
- 足の位置は、車椅子側は利用者さんの軸足の延長線上におく。もう一方の足は車椅子から遠い利用者さんの膝の外側、立ち上がりの際に踏み込んだときに、膝が当たるくらいの位置にする。
- 利用者さんに前傾姿勢になっていただきながら、臀部を浮かせる。
- 臀部の高さはそのままで、利用者さんの背面が車椅子の前面にくるよう一緒に回転する。
- 抱えた体勢のままゆっくり車椅子に座る。
4.利用者さんの体勢を確認
車椅子に移乗した後、利用者さんの体勢を確認します。
体勢を確認するポイントは以下の2つです。
- 深く座っているか
- 左右に傾いていないか
車椅子に浅く座っている、左右に傾いている場合は体勢を調整します。
調整するやり方を紹介します。
1.車椅子に深く座るように体勢を整える
車椅子に深く座るよう整えるやり方は以下の通りです。
- 利用者さんの後ろ側に立ち、利用者さんに腕を組んでいただく。
- 利用者さんの脇の下から腕を通し、腕に添えるように手を置く。
※腕は掴まないように、指をのばしておきましょう。 - 利用者さんの片方に重心をかけ、反対側のお尻を浮かせながら利用者さんを後ろに引く。
- 反対側にも重心をかけ、3の要領と同じように後ろに引く。
利用者さんに腕の力がある場合は、プッシュアップをしていただき体勢を整えましょう。
プッシュアップとは、車椅子の肘掛けにつかまり、下方向へ押しながらお尻を浮かせるやり方です。
プッシュアップをしながら深く腰掛けていただきます。
2.顔がまっすぐ前を向くよう整える
利用者さんの顔がまっすぐ前を向いていない場合は、左右に体が傾いていることが考えられます。
上述した「車椅子に深く座るよう整える」と同じやり方で体勢を整えましょう。
また、片麻痺などによって体勢が保持できず、どちらかに傾くことがあります。
どうしても傾いてしまう場合はクッションを使い、利用者さんの顔がまっすぐ前を向くように整えましょう。
5.車椅子を整える
最後に車椅子を整えます。
最初に取り外した車椅子のフットレスト、レッグカバー、アームレストを取り付けます。
フットレストの上に利用者さんの足が乗るようにしましょう。
移乗介助の注意点
移乗介助をするときの注意点を2つ紹介します。
- 利用者さんと息を合わせる
- 腕だけを引っ張らない
1.利用者さんと息を合わせる
利用者さんと息を合わせることで、スムーズな移乗が可能です。
息を合わせないと思わぬ方向に利用者さんの力が入り、転倒するリスクがあります。
息を合わせるには、動く前の説明と「せーの」「いちにの、さん」といった声かけが必要です。
そして、息を合わせると職員の力だけでなく利用者さんの力にも頼れるため、自分の体にかかる負担が少なくなります。
加えて、利用者さんの身体能力の向上にもなります。
2.腕だけを引っ張らない
移乗のときに利用者さんの腕だけを引っ張ると、骨折や脱臼のリスクがあります。
介助をする時は腕だけを引っ張らず、体幹から起こすようにしましょう。
そして、利用者さんが車椅子に浅く腰掛けているときに、職員が後ろから利用者さんの脇の下に手を入れ引っ張ることも危険です。
浅く腰掛けた時は、上述した「1.車椅子に深く座るよう整える」のやり方で整えましょう。
移乗に便利な介護用トランスファーボード(スライディングシート)
部分介助の利用者さんの場合、トランスファーボードでの移乗が可能です。
トランスファーボードを使った移乗のやり方は以下の通りです。
- ベッドに端座位になった後、体を傾けて車椅子側の臀部を浮かしていただき職員がトランスファーボードを差し込みます。
※利用者さんによっては自分でできる方もいます。 - 反対側のトランスファーボードの先は、車椅子の座面にセッティングします。
- 利用者さんに前傾姿勢で車椅子のアームレストを掴んでいただきながら、トランスファーボードの上を滑るように移動します。
介護に必要な技術【移乗】は安全に楽にできる!
今回は、安全かつ楽なベッドから車椅子の移乗のやり方を紹介しました。
移乗に悩んでいる職員は少なくないですが、方法次第で安全かつ楽な移乗が可能です。
移乗は日々の業務で必須の介助なので、安全で楽に移乗ができれば、体の負担が少なくなり嬉しいですよね。
そして、利用者さんの体も自分の体も守ることができます。
また、トランスファーボードを使えば、利用者さんの力を発揮しながら、職員の負担が少なく介助が可能です。
利用者さんの体の状態を確認しながら取り入れてみましょう。