近年、高齢化が進む中で訪問看護の需要はますます高まっています。
10年前と比べると訪問看護ステーションの数は2倍以上に増えており、訪問看護業界は今後も大幅な需要拡大が見込まれています。
確かなニーズがあり社会貢献にもなる訪問看護に魅力を感じ、自分でステーションを立ち上げたいと考える人も増えています。
しかし準備不足のまま開業し、廃業に追い込まれるケースがあることも事実です。
本記事では、訪問看護ステーションを立ち上げる手順とおさえるべきポイントについて解説します。
休止・廃止リスクを下げる方法も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
訪問看護ステーション立ち上げの手順
訪問看護ステーションを立ち上げるには、どのような手順を踏めばいいのか紹介します。
全体的な流れは以下の通りです。
①開業目的を明確にする
開業目的を明確にするには、事業計画書の作成が役に立ちます。
自分のビジネスプランが整理され可視化できるので、身近な人に事業内容を説明するときにも使えます。
事業計画書には、以下のことを記載するとよいでしょう。
- 創業者のプロフィール
- 開業目的
- 提供するサービス
- 競合やニーズ分析
- 法人の強み
- 広告戦略
- 資金計画
- 収支計画
どういった目的でどのような利用者さんに向けてどんなサービスを提供するのか、法人の理念や強みを明文化します。
開業目的やコンセプトがはっきりすると競合を避けた地域選定や、対象となる利用者さんがどのくらいいるかなど、リサーチがしやすくなります。
事業計画書は、銀行から融資を受ける際にも提出を求められます。
第三者の視点で事業が実現可能かどうか考え、事業計画書を作成するとよいでしょう。
②法人を設立する
事業を行う法人を設立します。
法人の種類は営利目的と非営利目的に分かれます。
訪問看護ステーションの場合、約8割が営利目的の法人です。
営利目的の法人には株式会社や合同会社といった「会社」の名前がつく営利法人(6割)と医療法人社団(2割)があります。
医療法人社団は個人が立ち上げるにはハードルが高いため、株式会社や合同会社を選ぶケースが多いです。
③事業資金を用意する
事業資金とは開業するための準備資金と運転資金です。
開業してすぐは訪問看護ステーションの認知度が低いため、開店休業の時期がしばらく続きます。
事業が軌道に乗るまで半年から1年、場合によっては1年以上かかると考えた方がいいでしょう。
また訪問看護事業を行う申請(指定申請)をしてから許可が下りるまで2カ月ほどかかります。
さらに国保連から報酬が支払われるのは2カ月先になるため、つなぎの資金も準備する必要があります。
事業資金は多ければ多いほど、資金ショートで廃業するリスクが低くなります。
自己資金が足りない場合は、日本政策金融公庫や銀行などから融資を受け十分な事業資金を用意しましょう。
自分が立ち上げる事業についてはつい楽観的に考えがちですが、経営者は最悪の事態を予想して準備する必要があります。
④事務所を借り備品を用意する
事業を展開する地域が決まったら事務所を借ります。
部屋数が少ない事務所なら、パーテーションで区切って事務室、相談室、倉庫、洗濯場、消毒部屋などを作ります。
訪問の移動手段である電動自転車やバイク、自動車を置くスペースも必要です。
近くに借りられる駐車場があることも確認しましょう。
事業に必要な備品も用意します。
必要なものは、机、椅子、パソコン、訪問看護ソフト、プリンタ、電話機、FAX、鍵付き書棚、洗濯機、冷蔵庫、電動自転車、衛生材料、薬品などです。
日々の業務で使用する訪問看護ソフトはしっかり検討してから導入しましょう。
価格ではなく機能を重視し、スタッフ目線で使いやすいものを選定します。
訪問看護事業の指定申請をする際、事務所内の写真を提出する必要があるので、申請前に備品を用意し事務所内を整理しないといけません。
⑤スタッフを採用する
訪問看護ステーションを運営するには人員基準があり、保健師・ 看護師 ・准看護師を常勤換算で2.5人雇わないといけません。
最低でも3人の看護師を雇用する必要があります。
また事務員も採用します。
事務員は一般的な事務業務に加え、介護報酬請求業務も行います。
介護保険の知識も身につける必要があり、利用者が増えるとかなりの業務量になります。
⑥指定申請を行う
訪問看護事業を行うには、開業する都道府県や市区町村に決められた書類を提出し、地方厚生局から訪問看護事業者として指定されなければなりません。
指定申請が下りるまで2カ月くらいかかります。
また指定申請の前に「新規指定前研修」も受けなければなりません。
介護保険・介護報酬の知識や遵守すべき法律について学べます。
早めに受けた方が訪問看護ステーションの立ち上げにも役立つでしょう。
訪問看護ステーション立ち上げの重要ポイント
訪問看護ステーション経営に重要なことは「看護師の人員確保」と「資金管理」です。
訪問看護事業が休止や廃止に至るケースのほとんどは、この2つのうちどちらかがうまくいっていません。
看護師の人員を確保する
訪問看護ステーションの課題の一つに看護師確保の難しさがあります。
常勤換算で2.5人の人員基準があり、基準を満たせない場合は休止・廃止届を提出することになります。
訪問看護師の離職率は病院看護師よりも高い傾向にあります。
何とか3人の看護師を採用できたとしても、離職しないようにマネジメントすることは簡単ではありません。
訪問看護師の離職率が高い理由は以下の通りです。
- 一人で利用者さんの対応にあたることに負担を感じる
- 夜間や休日のオンコール対応がつらい
- 先輩からのフィードバックが得られにくい
- スキルアップの機会が少ない
- 同僚が少なく孤独を感じやすい
- 利用者さんとの関係が悪くなると一人で悩んでしまう
- 看護師は売り手市場であり職場環境が悪いとすぐ辞めてしまう
看護師の採用には求人と紹介料などで一人につき約100万の採用コストがかかります。
せっかく採用できてもすぐに辞められてしまっては、また採用費がかかることになり負のループに陥ります。
看護師が悩みを抱えていないか、何に不満を感じているのか、常に気を配り、定期的にコミュニケーションをとることが大切です。
資金不足にならないよう資金管理する
いつどれだけのお金が入ってきて、いつどれだけのお金が出ていくのか、しっかり把握し資金不足にならないよう管理する必要があります。
一般企業でも資金管理がうまくできず黒字倒産するケースがあります。
キャッシュフロー表を作り、資金ショートしないように気をつけなければなりません。
予期しない大きなお金が出ていくこともあります。
よくあるのが看護師が急に辞めてしまい、採用費を支払うケースです。
資金に余裕がないと余裕ある採用もできず運営にも支障をきたします。
訪問看護ステーション立ち上げ前にやるべきこと
経営において重要なのはヒト・モノ・カネだといわれますが、訪問看護業界においては、圧倒的にヒトが大事になります。
いい看護師なくして事業は成り立ちません。
またSNSを使うこともおすすめです。
訪問看護にかける熱い思いや立ち上げの苦労などを発信し、そこで求人をかければ同じ価値観を持つ看護師が集まりやすくなります。
採用コストは0円です。
熱い思いがあって立ち上げる訪問看護ステーションです。
休止や廃止にならないよう、よく考え十分な準備をして開業しましょう。